鍛冶体験『小刀教室』
2月前半の土日、2週にわたって計4日間、「鍛冶体験教室」が開催されました。
正式名称は【昔の農村体験 ~冬の巻~「ものづくり」小刀教室】。主催は次大夫堀公園民家園、運営は鍛冶の会によるものです。
この教室は、コロナ禍を経て5年ぶりの開催となりました。今回は電話による申し込みで、先着4名様限定。世田谷区在住・在勤の制限はなく、4日間すべてに参加できることが応募条件でした。
鍛冶体験ですから上画像(実際の作業風景)のように鉄を赤めてトンテンカンみたいな想像をされると思います。会場である鍛冶小屋の環境では、このトンテンカンの作業が同時に2名までしか行えません。2名二組の交代制でしかトンテンカンの作業が成立しないために受講者の最大値が4名となります。
受講者は4名と少人数でしたが、この小刀教室の最大の魅力は、本格的な鍛冶作業を一通り体験できる点にあります。
「本格的」とは、単なる刃物づくり体験にとどまらず、鍛接(刃金付け)に始まり、センを使ったウラスキ、成形、焼き入れ・焼き戻し、刃下ろし、研ぎに至るまで、鍛冶の一連の工程を自らの手で体験できるということ。全国的に鍛冶体験のワークショップは数あれど、時間的な制約などから、鍛接やウラスキといった工程まで踏み込めるものは稀です。
(※上の写真は、ベテランによる鍛接工程のデモンストレーション)
しかも、会場は区の施設、運営はボランティアによるもの。参加費はランチ代程度のごくわずかな負担で済むというのも、嬉しいポイントです。
無事に全員が鍛接から火造りまでの工程を終えると、仕上げた部材は藁灰の中に埋めて一晩かけてじっくりと冷却されました。
そして迎えた翌日――。ご存じの通り、世田谷でも雪が積もるほどの寒さとなりましたが、参加者たちは時間通りに集合。冷え込む朝の空気の中、成形作業に真剣な表情で取り組む姿が印象的でした。
センや鑢(やすり)を使って、切り出し小刀の形を少しずつ整えていきます。参加者の皆さんは、休憩もそこそこに黙々と作業を続けていて、ほとんど休まないんです。
その原動力は、やはり「楽しい!」という気持ちに尽きるのでしょう。私自身もこの小刀教室の出身で、そこから鍛冶の会に加わった身ですから、よくわかります。本当に、楽しいんです。
女性の参加者も含めて、皆さんかじかむ寒さにの中、にこにこと笑顔で作業に没頭しています。
こちらが、二日間の作業による成果です。進捗にはそれぞれ差はあるものの、全体としてはおおむね順調に進んでいる様子。
なにしろ、未経験の素人が鍛接から始めた鍛冶作業ですから、この時点でここまで形になっているのは立派なものです。
とはいえ、完成まではあと二日。残りの工程をしっかりこなして、仕上げまで漕ぎつけなければなりません。参加者の集中力と情熱が、ここからさらに試されることになります。
翌週の鍛冶教室三日目は、日差しも暖かく、まさに絶好の鍛冶日和となりました。
この日の工程は、成形作業を終えたのち、鍛冶の醍醐味ともいえる「焼き入れ」と「焼き戻し」を行い、可能であれば荒オロシまで進めたいところです。
会のベテランが、焼き入れ前に施す焼き刃土と砥の粉の塗布についてレクチャーを行い、その後、焼き入れ作業を実演しました。
焼き刃土と砥の粉には、焼き入れを安定させる効果に加え、焼き上がりの鉄肌を美しく仕上げる働きがあります。私たちの会で使用している焼き刃土は、月島の左久作師匠から伝えられた特製のものです。
作業場である鍛冶小屋を暗所にし、神秘的な焼き入れの体験が始まります。
普段、私たち鍛冶の会の活動では、鍛冶作業の実演が主な目的のため、鍛冶小屋は開放され、焼き入れ作業も公開しています。しかし、この日は特別に扉を閉めての作業。明るい場所で見る赤熱した鋼と、暗所で見るそれとでは、色の見え方に大きな違いがあり、そのギャップに戸惑うこともあります。けれども、その違いを意識することで、参加者を成功へと導くことができるのです。
参加者は右手に鍛冶屋バシを持ち、小刀を構え、左手には磁石を携えます。
小刀を炎の中でゆらゆらと揺らしながら、色むら(温度むら)をなくすように加熱し、同時に左手の磁石で温度を確認します。焼き入れに適した温度帯と、磁石が鋼に付かなくなる温度は近いため、こまめに磁石を当てて確認していきます。温度が上がるにつれて磁力が弱まり(厳密には逆の現象ですが)、ついには磁石が付かなくなります。その瞬間が焼き入れの合図。色むらの最終確認を行い、水桶をかき回すようなイメージで一気に急冷します。
鍛冶教室の最終日は、刃物を「刃物たらしめる」ための研ぎの工程です。
まず、小刀に刃の角度を想定したラインを引き、それに沿って鑢(やすり)で地金を削り落としていきます。
焼き入れを施した小刀は、地金の部分は鑢で削れますが、鋼の部分は滑って削れません。思い切って、地金をひたすら削り進めることが肝心です。
荒オロシが終われば、あとは時間と集中力、そして根気との勝負になりますが、参加者の皆さんはそれぞれに上手に研ぎを進めていました。
研ぎの指導を担当する古参の会員は、参加者が木工家で確立した研ぎのスタイルをお持ちだったため、特に指導することもなく、静かに座って見守っていました。
本当は教えたくてうずうずしていたのですが、研ぎの腕前が確かな参加者に対しては、口を挟む余地もなく、参加者のスタイルを尊重して、じっと我慢していたようです。
皆さん、余裕をもって研ぎの工程を終えられたので、最後に各指導担当が刃物の裏側に参加者のお名前を銘切りし、無事に終了となりました。
小刀教室の開催は5年ぶり。運営側としても少しブランクを感じていましたが、参加者の皆さんからは「もう一度体験したいほど楽しく、夢中になれた」との嬉しい感想をいただきました。
鍛冶の会では、教室終了後に反省点や改善点を持ち寄り、次回に向けてさらに内容をブラッシュアップしてまいります。
以上、鍛冶体験『小刀教室』のご報告でした。
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