鍛冶の会 焼き入れと鑿
ここ数年、私は毎年数本の鑿を造っています。というのも、我々鍛冶の会の顧問は月島の鑿鍛冶・左久作師匠だからです。師匠には遠く及びませんが、その片鱗でも再現できればと思い挑戦しています。しかし鑿は本当に難しいテーマです。
鍛冶作業の対象として幅が広いものは火造りが困難で、逆に幅の狭いものは成形が難しくなります。したがって私は、まずは作りやすい幅を確実にマスターしたいと考えていますが、何年もの間、一進一退を繰り返しています。
あらゆる道具がそうであるように、鑿も時代ごとに容姿が変化してきました。現代の鑿の形状は完成形かもしれませんが、ある日天才がブレイクスルーを起こし、新たな形状のフェーズに入るのかもしれません。
上画像は、重房に代表される「会津鑿」と呼ばれる個体です。当然かなり古いものです。使い減ってはいますが、優美で嫋やかな姿に強く惹かれます。現代鑿は首と肩に明確な境界がありますが、この鑿は首から肩へと一連の流れで完結しています。ウラスキを除外しても平面の面積が異様に広いのも特徴で、首などは四角く見えるほどです。こんな綺麗な鑿が造れたらと、日々チャレンジしています。
今年の3本目の鑿は、火造りの段階から平面部を意識して進めています。さて、結果はどうなるでしょうか。
焼き入れについて
焼き入れとは、刃物を刃物たらしめる作業、すなわち刃物に命を吹き込む工程と言えます。焼き入れをしなければ刃物として成立しにくい、大変重要な作業です。
具体的には、素材をおよそ790℃前後までむらなく赤め、20℃前後の水で急冷します。すると刃部にあたる刃金が硬化しますが、この事実を大昔に誰が見つけたのか、想像すると興味が尽きません。
我々鍛冶の会は作業を公開し、来園者に実演解説するのがお役目です。したがってプロの鍛冶屋さんのように安定した暗所で焼き入れをするわけにはいきませんし、電子制御で温度管理された環境とも雲泥の差があります。カンカン照りの日もあれば薄曇りの日もあり、あけ放たれた鍛冶小屋では同じ温度でも赤みの見え方が違ってきます。
そこで我々は、焼き入れ温度の均一化を図るために磁石を使用しています。鉄(鋼)は770℃を超えると磁石にくっつかなくなる性質があり、これを利用します。とても都合の良い性質で、キューリー点を基準にしつつ、そこから+20℃ほどを勘で調整します。
その後、20℃前後の水で急冷します。鍛冶の会では「23℃」と言う人が多いのですが、私は厳密ではありませんが「21℃」を目安にしています。冬場の水は冷たいので赤めた鉄で水を温めますが、夏場は大変で、氷や保冷剤で温度調整することもあります。昔の名人たちは、この水温問題をどのように解決していたのでしょうか。
そして最後に、なぜ私が水温21℃にこだわっているのか、その理由を思い出そうとしても思い出せません。先輩は23℃と言っていますし、師匠に教わった記憶もありません。
なぜだろうと考える……。
以上、鍛冶の会・不定期報告でした。
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