鍛冶の会 不定期報告 鉋刃
鍛冶の会の最終課題でもある鉋刃のお話。
月島の久作師匠に、なぜ鉋刃を最終課題にされたのですかと聞いたことがあります。
『鉋刃』その名の通り鉋の刃であると、すなわち刃そのものであると仰っていました。
鉋刃は単体では機能せず、台ありきの道具です。台の精度と刃の研ぎと仕込みの調整とが組み合わさって機能する道具の一部です。鉋刃は刃を受け持つ刃そのものなのです。
材料は四角い大きな板(地金)と、その半分くらいの大きさで薄い板(刃金)になります。
地金は柔らかいものが好まれます。古い鉄ですと地金にゴマ粒や縞模様が出ます。
ふたつの部材を真っ赤(実際には黄色く輝くくらい)に加熱して一気に叩いて一体化させます。これを鍛接と呼びます。
鍛接が済みますと、少しずつ温度を下げながら繰り返し加熱しては叩いて形を整えてゆきます。これを火造りと呼びます。
火造りの終わった部材は再加熱して一晩藁灰の中でゆっくりと冷まします。
一晩休んだ部材は刃金が柔らかくなり加工しやすくなりますので、センやヤスリを使って成形作業を行います。頭の形や。ウラと呼ばれる刃金の窪み、なるべくなだらかで均一に仕上げます。
背中も同様に窪ませますがここは台との接地面にもなりますので、凸凹とならないように定規を当てて、その隙間になった光と影を確認しながら作業を進めます。
納得のいくまで成形をすますと、いよいよ焼き入れです。
徐々に加熱して行くのですが温度むらがあってはいけません。火の中でゆらゆら差し引きして温度のむらをなくします。
適切な焼き入れ温度の頂点で一気に水桶に突っ込みます。ぼーっとしてはいられません。水桶に突っ込んで素早く水の中で動かします。
ダイナミックな作業ですが、それほど難しい工程ではありません。
焼き入れに関しては失敗の少ない作業と言えますが、焼き入れによって捻じれたり屈んだり反ったりすることがあるのですが、それを直す作業が中々厄介な工程と言えます。
まず、焼き入れをした後は焼き戻しをします。
刃に粘りを持たせるなどと言われますが、ピンピンに焼きを入れた刃を190℃前後に加熱して少しだけ柔らかくする作業です。
どこでだれが発明したのか興味がありますし、焼き戻しのネーミングセンスも好きです。
さて、180℃から200℃の鉄は目で見ても何もわかりません。20℃から350℃くらいでも見た目の変化はないと思いますが、水を垂らすと分るのです。
100℃くらいならゆっくり蒸発しますし、150℃ならジュっと蒸発します。180℃くらいになりますと水が玉になって転がります。
私も幾らか経験を積んできましたが、焼き戻しは最も失敗したくない工程です。
目出度く焼き入れ焼き戻し工程が済み、歪み取りの必要があれば修正して研ぎの工程に入ります。
刃金は薄い方が現代の好き物に好まれるようですが、私は道具の使い手ではありませんので、世の好みに合わせて薄い刃金で造ってみました。
私の様に研ぎが苦手な人間にはなかなか酷な工程です。
ほどほどに研ぎましたら、あとは使用者が好みに合わせて砥げばよいと考えています。
以上、今年造った鉋刃の記録でした。
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